演題詳細

教育講演 / Educational Lecture

教育講演41 (Educational Lecture 41) : プログレス

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日程
2013年10月11日(金)
時間
13:55 - 14:25
会場
第13会場 / Room No.13 (札幌市教育文化会館 3F 研修室301)
座長・司会
嶋 緑倫 (Midori Shima):1
1:奈良県立医科大学 小児科
 
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非典型溶血性尿毒症症候群 (aHUS)

演題番号 : EL-41

藤村 吉博 (Yoshihiro Fujimura):1

1:奈良県立医科大学附属病院 輸血部

 

緒  言

 溶血性尿毒症症候群hemolytic uremic syndrome(HUS)は細血管障害性溶血性貧血,血小板減少,急性腎障害を3主徴(Triad)とする全身性重篤疾患で1955年にドイツのGasserらによって最初に報告された1)。その後,1982年の米国でのハンバーガー食中毒事件をきっかけに,志賀毒素(Shigatoxin, Stx)を産生する腸管出血性病原大腸菌(Enterohemorrhagic Escherichia coli, EHEC)O157による腸炎に合併して高頻度にHUSが発生することが示された。最近では,本邦及びドイツにおいて,O111やO104などO157以外のStx産生EHECによって脳症併発などの重篤HUS例が多数報告されている。
 一方,このような下痢に伴う[diarrhea, D(+)]HUS以外に,下痢を伴わないD(-)HUSが散発性あるいは家族性に発症することが早期から知られていた。しかし,これら患者群の詳細なnatural history解析では非出血性下痢を伴うことは屢々あり,D(-)HUSという表現は適切ではなく,最近は「非典型溶血性尿毒症症候群[atypical(a)]HUS」2)と統一して呼ばれるようになった。これより,本稿ではaHUS研究の歴史的背景,次に補体と補体調節因子の基本的役割を紹介し,その後,本邦aHUSの診断と治療の現状を欧米のそれと対比しながら解説する。

歴史的背景

 aHUSの原因には諸説あったが,同種腎移植後にHUS再発が見られること,また限られてはいたが血漿交換療法に良く反応する症例もあったことから,患者のHUS発症には何らかの血漿因子が関与するものと推定されていた。実際,aHUS患者数名においては補体調節因子であるcomplement Factor H(CFH)蛋白量の著減(5~10%)と,この疾患が劣性遺伝を示すことは1981年にThompson & Winterborn3)によって,また1994年にはPichetteら4)によって報告された。しかしながら1990年,Roodhooftら5)は,ある一家系において,aHUS患者はCFH蛋白量が48%と略半減していたが,母親は正常で,父親は34%と低下していたが無症状であったことより,CFHの量的低下は優性遺伝と考えられるが,症状は必ずしもこれに一致しないことを報告した。この後,1998年にWarwickerら6)は患者DNAの多点連鎖解析にてCFHの遺伝子異常と疾患関連性を証明するというブレークスルーをなし得た。これ以降,補体や補体関連因子に注目が集まり,complement(C)3やCFHを含む様々な補体調節因子であるcomplement factor B(CFB)やcomplement factor I(CFI),またその関連膜糖蛋白であるmembrane cofactor protein(MCP)やthrombomodulin(THBD)がaHUSの原因となることが示された。より最近にはdiacylglycerol kinase ε(DGKE)という血小板活性化に必須のアラキドン酸代謝経路シグナルを遮断する蛋白の遺伝子異常もaHUSの原因となることが報告されている7)

本邦でのaHUS解析状況

 欧米でのaHUS研究は上記のごとく,1998年以降,遺伝子解析を中心に大きな進展があり,その病態概念として「補体活性化の制御不能」が本疾患の根底をなし,それ故に治療には補体活性化の最終点に位置するC5の活性化を阻害する分子標的療法が奏功することが示された。これに対し,本邦でのaHUS研究は欧米からは大きく立ち遅れていたが,2011年に信州大学の天野・日高ら8)によりCFH missense変異をヘテロ接合体で持つaHUS症例が発見され,本疾患に対する本邦研究者の認知度も急激に高まった。
 奈良医大輸血部は1998年以降,国立循環器病研究センターと共同で,ADAMTS13解析を通じて本邦の血栓性微小血管障害症(thrombotic microangiopathy, TMA)の患者診断と登録のコホート研究を行ってきた。この結果,2012年末の時点で1149名のTMA患者数を登録することになった(論文未発表)。また,2013年2月には「本邦におけるaHUS診断ガイドライン」が,日本腎臓学会と日本小児科学会のホームページにて公表された。本診断基準は,徳島大学小児科の香美祥二委員長と東京大学腎臓・内分泌内科の南学正臣先生を中心としたaHUS診断基準作成ワーキング・グループの尽力のもとで作成された(Table 1)2)。この診断基準に照らすと,我々のコホート研究の中で,2011年迄は原因不詳の先天性HUSというカテゴリーに属していた症例の殆どがaHUSに該当することが判明し,最終的に前記TMA患者中,55名が先天性aHUSと分類された。また,ADAMTS13活性を遺伝性に欠く先天性血栓性血小板減少性紫斑病(thrombotic thrombocytopenic purpura, TTP)─別名,Upshaw-Schulman症候群(USS)─も49名同定された。これより,前記コホート研究では本邦TMA患者中で9.1%(104/1149)は先天性TMAと分類された。

補体活性化とその調節機構

 補体系は個体の免疫機構構築に必須で,3つの基本的経路を介して活性化される。これらは古典経路(classical pathway),レクチン経路(lectin pathway),第二経路(alternative pathway)である(Fig. 1)9)。古典経路では抗原抗体反応によって,またレクチン経路は血清中のマンノース結合レクチンが細菌膜表面のマンノースに結合することにより活性化が開始される。さらに第二経路では,病原微生物上にC3が結合することにより活性化される。一方で,自然界ではC3内のチオエステル結合の持続的加水分解が絶えず生じており,C3が自動的に活性化されている状態にある。即ち,これらいずれの経路を介しても,最終的にはC3分解活性化反応が進行し,細胞膜侵襲複合体であるC5b-9(membrane attack complex, MAC)が形成される。
 1974年以降,aHUS患者ではC3低下が見られるが,C4低下は見られないとの報告がなされた10)。また,第二経路では活性化反応にC3分解を伴うが他の経路とは異なりC4分解は伴わない。これよりaHUSには第二経路の活性化が特異的に関与していることが予想された11)。補体活性化第二経路(Fig. 1)では,C3が加水分解反応によりC3aとC3bに分解され反応が開始する。C3の分解によって生成したC3bはCFBと結合し,続いてCFDにより分解されることでC3bBb(C3 convertase)を形成する。C3 convertaseはC3の分解を促進させ,生じたC3bとさらに結合してC5 convertase(C3bBbC3b)を形成する。C5 convertaseはC5をC5aとC5bに分解し,生じたC5bがC6-C9と複合体(C5b-9)を形成,膜侵襲複合体として病原体膜に結合し,溶菌,細胞膜融解を引き起こす。また,第二経路で活性化されたC3bはオプソニン効果を持ち,抗体によるウイルス中和反応を増強する作用を持つ。特に病原体に結合したC3bは貪食細胞による病原体の貪食と破壊を促進する。またC3a,C5aは好塩基球や肥満細胞からヒスタミンなどを放出させるアナフィラトキシンとして働く。
 補体調節因子は補体活性化作用において,活性化と非活性化(制御)のいずれか一方の機能を持つものに大別される。活性化因子として代表的なものはCFB,CFD,properdinであり,制御因子としてはCFIとCFHがある。さらに細胞膜上の制御因子としてMCP(CD46),decay accelerating factor(DAF),THBDなどが知られている。aHUSでは,これら補体調節因子の中でも特に第二経路の補体制御因子の異常が数多く報告されている。これら補体制御因子はregulators of complement activation(RCA)proteinと呼ばれ,ヒトでは染色体1q32上にgene clusterを形成している。また,これら因子は共通してcomplement control protein(CCP)と呼ばれる約60のアミノ酸からなる相同性の高いドメイン構造を持つ。C3ステップでの制御因子にはCFH,C4結合蛋白,補体レセプター1(CR1),MCP,DAFが含まれる。aHUSにおけるこれら補体制御因子の異常は,過剰な補体の活性化や補体による自身の細胞障害を引き起こすと考えられる。

CFH

 CFHは分子量150kDの血漿糖蛋白質であり,主に肝臓で産生される。この分子は20個のCCPから構成され,分子内に3ヶ所のC3b結合ドメインと2ヶ所のグリコサミングリカン(GAG)結合ドメインを持つ(Fig. 2)。CFHは主に第二経路における制御因子として働き,1)CFIによるC3b分解の補助,2)C3bへのCFBの接着阻害,3)C3 convertase(C3bBb)の解離促進などの機能を持つ12)。これらの働きはN末端側のCCP1-4で行われ,この領域は制御ドメインと呼ばれる。CFHはヘパラン硫酸プロテオグリカンなどを介して血管内皮細胞などに結合し,補体による攻撃から自身の細胞を保護するといった極めて重要な役割を持つ。細胞膜表面への結合はC末端側のCCP19, 20を介して行われることからこの領域は認識ドメインと呼ばれる。最近の詳細な研究により,CCP19はC3bに結合し,CCP20はヘパラン硫酸プロテオグリカンに結合することが示された。欧米ではaHUSの20~30%(本邦では10.0%)でCFH遺伝子異常が存在することが示され13, 14),aHUSにおける遺伝子異常の中で最も頻度が高いことが示された(Table 2)。報告された遺伝子異常は分子全体に認められるが,その約60%が認識ドメインであるCCP19,20に集中しており(Fig. 2),この領域における遺伝子変異は細胞表面における補体の攻撃からの保護機構の破綻を引き起こすと考えられている。本邦ではCCP20にR1215Q変異のみが観察されている。
 aHUS患者の6~10%(本邦では13.3%)でCFHに対する自己抗体の存在が確認されている15)。CFHに対する自己抗体はIgG型で,遺伝子異常の好発部位と同じC末領域を認識し,C3bへの結合を阻害することで,補体の過剰な活性化を引き起こす。近年,CFHに対する自己抗体生成の機序にはCFH related(CFHR)蛋白質1~5の遺伝子異常が深く関わっていることが明らかとなってきた。自己抗体陽性患者ではCFHR1CFHR3の遺伝子が欠損していることが報告されている16)。これらCFHR蛋白質の遺伝子はCFHと同様,染色体1q32上に存在し,CFHと非常に類似した遺伝子配列を持つ。このようにCFH抗体陽性で,かつCFHR遺伝子の欠損が見られるaHUS症例はDEAP(Deficiency of CFHR plasma protein and autoantibody-positive form)-HUSとして近年注目されている16)

MCP

 MCPは膜結合型糖蛋白で,CFIの補助因子として同一細胞上のC3bやC4bを分解するが,CFHとは異なりC3 convertaseの崩壊促進には関与しない。MCP遺伝子異常は欧米ではaHUS患者の約10~15%(本邦では13.3%)と報告されている17)。MCP遺伝子異常の患者では,CFH異常など他の因子の異常に比べ,比較的予後が良いことが知られている。また,血漿治療の有無による予後の差はなく,90%以上の症例で寛解が得られている18)。腎移植後の再発率も低く,これは移植腎に十分なMCPが含まれているためと考えられる。

CFI

 CFIは分子量88kDの血漿糖蛋白であり,主に肝臓で合成される。CFIはCFHやMCP,C4結合蛋白などを補助因子としてC3bやC4bを分解するセリンプロテアーゼである。CFI遺伝子異常は,欧米ではaHUS患者の4~10%(本邦では未発見)と報告されている17, 19)Table 2に示すように,血漿交換などの治療に対する反応は悪く予後は不良である。

THBD

 THBDは血管内皮細胞上に存在する膜蛋白で,抗血栓,抗炎症,細胞保護作用を有する。THBDはC3bとCFHに結合し,CFIを介したC3b不活化を促進する。また,THBDに結合したトロンビンは血漿thrombin-activatable fibrinolysis inhibitor(TAFI)を活性化し,生じたTAFIaはC3a,C5aを不活化する。2009年にDelvaeyeら20)により,THBD遺伝子異常がaHUSに関与していることが示された。彼らは152例のaHUS患者の中で7例の患者において,6種類のTHBD遺伝子変異を発見した。欧米での頻度は約5%(本邦では3.3%)である。THBDに遺伝子変異があるとC3b不活化能とTAFIa形成能が減弱し,結果として補体活性化を制御できずaHUSが発症すると考えられている。

CFBとC3

 aHUSでは機能獲得型(gain-of-function)異常として補体機能が過剰に活性化する症例も報告されている。これに相当するのがCFBとC3の遺伝子異常である21, 22)。CFB遺伝子異常は欧米ではaHUSの約1~2%(本邦3.3%)に認められる稀変異である。変異CFBはC3bへ過剰に結合し,C3 convertaseを活性化することでC3bを過剰に産生させる。
 C3遺伝子変異は欧米ではaHUS患者の5~10%と比較的少ないと報告されている。しかし本邦ではC3遺伝子変異はaHUS全体の43.3%を占め,欧米とはその頻度において大きな差異が確認されている。しかもその種類はI1157T変異が圧倒的に多い(後述)。C3変異患者(例えばC3-I1157T)では変異C3bのCFHやMCPへの結合能が低下し,C3b分解が減じるためにaHUSが発症すると説明されている(Fig. 3)。

DGKE

 DGKEは血管内皮細胞,血小板,腎podocyteなどの細胞質と膜の両方に存在する分子量64kDの蛋白で,その作用は血小板活性化に必須であるアラキドン酸代謝経路のシグナル伝達を遮断する機能を持つ。最近の米国の研究グループでの報告7)では,このDGKE遺伝子異常によるaHUS患者は常染色体性劣性遺伝形式を示し,いずれもaHUSの初発は1才以下とearly-onsetの特徴を持つ。症状は持続性高血圧,血尿,蛋白尿(屢々ネフローゼ様)で,その後加齢と共に慢性腎不全に移行する。本邦では未発見である。

本邦でのaHUS診断

 aHUS診断については,2011年にフランスのLoirat & Fremeaux-Bacchi 23)により,Fig. 4のようなアルゴリスムが提唱されたが,本邦ではルーチン検査として行えるC3やC4の定量を除いて,CFH,CFI,そしてCFBを日常臨床の中で測定することは殆ど不可能である。またMCP発現量測定には生細胞とフローサイトメーター解析が必要で,この実施も容易ではない。さらに,これら蛋白の定量が出来ても,それらがmissense変異である場合,発現蛋白量は略正常である場合が多く,確定診断にはやはり遺伝子解析が必須となる。一方,2004年にSanchezら24)は羊赤血球と患者血清を用いた溶血アッセイを報告したが,その適応範囲と再現性についてはやや不明なところがあって,前記アルゴリスムには組み入れられていなかった。我々は最近,CFH機能を完全阻害する抗CFHマウスモノクロナール抗体の作成に成功した。そしてこの抗体と,患者血漿,羊赤血球を用いた再現性のある「定量的溶血アッセイ」の構築に成功した。現在は,この溶血アッセイを含むaHUSの蛋白レベル解析を当輸血部で,また補体や補体調節因子の遺伝子解析を国立循環器病研究センターで行っている。Fig. 5にその診断のフローチャートを示す。これに沿って,具体的な解析内容について紹介する。
 まず依頼者である各医療機関の主治医は患者の病歴とルーチン検査によってTMA疑診患者からEHEC関連の典型的HUS[Shigatoxin-producing E.coli(STEC)-HUS]を否定しておく(Step 1)。その後,原則的には患者とそのご家族に奈良医大輸血部のセカンドオピニオン外来を受診して頂く。ここで詳細なNatural historyの聴取と同時にインフォームドコンセントを行い,その後aHUS関連の蛋白—遺伝子検査同意書にサインして頂く(Step 2)。この後,患者及びご家族のクエン酸血液5 mlを採取し,遠心分離にて血漿と赤血球沈層に分離する。必要に応じてこれらを-80℃で凍結保存する。被検クエン酸血漿については,まず,①ADAMTS13活性測定を行い,ADAMTS13活性著減(<5%)を示す定型的TTPを除外する。次に②羊赤血球を用いた定量的溶血反応試験を行う。溶血試験は前記Sanchezらの方法で実施しているが,被検血液は血清ではなく,クエン酸血漿を用いている。これは溶血反応では血清よりも血漿の方がより安定した結果が得られるためである。実施は,様々な量の患者血漿と一定量の羊赤血球をMg2+存在下で,37℃で30分間孵置し,その後EDTAで反応停止後,生じた溶血程度を吸光度414nmで測定するというシンプルなものである。通常,正常人血漿では羊赤血球の溶血は殆ど起こらない。本試験によって溶血亢進が見られた場合には,③精製CFH添加による亢進溶血の補正試験を行う。溶血が補正された場合には,主としてCFH異常あるいは抗CFH自己抗体の存在を疑う。従って,必要に応じて,④CFH抗原量定量,⑤抗CFH抗体検査(ELISA及びWestern blot法),そして⑥CFHR1,3抗原の半定量(Western blot)を行う。尚,本試験において溶血亢進を認めない場合には,MCPやTHBD等の膜蛋白質である補体調節因子の異常を疑う。また,これまで解析を施行した限りではC3 missese変異(I1157T変異)では溶血亢進がないことを確認している。この後,国立循環器病研究センターでaHUS患者においてaHUS関連遺伝子解析を行う(Step 3)。これらは既知のaHUS関連6因子(CFH,CFI,MCP,CFB,C3,THBD)全てのexonを含む部分のPCR増幅と塩基配列解析を行い,またCFH抗体陽性例ではCFH/CFHR領域の遺伝子欠損の有無を調べるMLPA解析を実施している。
 Fig. 6にTMAにおけるaHUSの位置づけと溶血試験及び遺伝子解析の関連を示す。前述したように溶血亢進が認められた患者ではCFH異常あるいはCFH自己抗体陽性の症例が同定されている。なお,これまでにCFHに異常が同定された症例は3例(1例は信州大で解析)であり(患者家族も含めると全部で7例),いずれもC末領域のCFH-R1215Q変異であった。溶血亢進を示さなかった症例では,C3やMCPの異常が同定されているが,中でもC3の異常が高頻度で同定されており,2例の患者を除いて全てC3-I1157T変異であった。これら患者解析の中間成績については,昨年,国立循環器病研究センターより報告を行った25)
 現在までの成績をまとめると,約30%の症例で溶血試験において異常を同定することができ,約70%強の症例でaHUSの原因と考えられる遺伝子変異が同定されている。しかしながら症例によっては,溶血試験のみが異常亢進を示した例があり,またその逆も存在していたことより,現時点では蛋白レベルと遺伝子レベルの解析は互いに補完的であると考えられる。即ち,aHUS患者解析においては蛋白質と遺伝子の両面解析が必須である。しかし,これらを合わせても依然としてaHUS全体の約30%はaHUSである事のEBMをくっきりと示す事の出来ない症例があり,今後の検討課題として残されている。

治  療

 1970年代後半からaHUSに対して血漿交換や血漿輸注などの血漿療法が導入され26),死亡率は50%から25%にまで低下はしたものの,依然として予後不良の疾患である。aHUSの治療ガイドラインによれば,ADAMTS13活性測定を含めた鑑別診断を行い,aHUSと診断すれば24時間以内に血漿交換を行うべきとされている27)
 CFHの量的異常の治療法として,血漿輸注を早期に開始することで腎機能を維持することができるとの報告がある28)。大多数の補体系機能異常症例では,新鮮凍結血漿を用いた血漿交換が有効であるが,すべての症例で血漿交換を行う必要はない。血漿交換を継続すると不応になる場合があり29),その結果高度の腎不全となった場合,腎移植単独の再発率は80~90%と予後は不良である28)。腎臓と肝臓の同時移植では長期予後が良いとの報告もあり30),これは肝移植により正常なCFHの産生が行われるようになるためと考えられる。一方,aHUSにおける血漿療法の効果は決して満足できるものではない。これはaHUS原因に膜蛋白由来のものが有ることも原因である。
 近年aHUSに対する血漿療法に抵抗性を示す症例に対して期待されている治療薬が補体C5に対するモノクローナル抗体,エクリズマブ(eculizumab)である。エクリズマブは発作性夜間ヘモグロビン尿症(PNH)の治療薬として2007年に欧米で,本邦では2010年に承認されている。近年エクリズマブのaHUSに対する有用性が欧米の数多くの研究者により報告されるようになった31)。これを受けて,米国では大規模な臨床治験が行われ,2011年9月にaHUSの治療薬として承認された32)。エクリズマブの作用機序はC5に結合することによりC5aとC5bに分解されるのを阻害し,C5b-9による細胞膜侵襲作用を抑制すると考えられている。

おわりに

 2013年初春に本邦aHUSの診断ガイドラインが完成した。またこれと略平行して,奈良医大輸血部と国立循環器病研究センターの共同研究体制下にaHUS診断のアルゴリスムとその検査体制が確立された。これにて,解析例数は未だ少ないが,欧米ではCFH遺伝子変異が最も多いのに対し,本邦ではC3遺伝子変異が圧倒的に多いこと,また本邦のC3とCFH変異については患者の出身地に関わらずそれぞれ特定のmissense変異が多いことが判明した。現在,欧米でaHUSの特異的治療薬として認可されているエクリズマブが,本邦でも同患者に適用出来るようになれば,より適切な治療選択肢として患者の予後に大きな影響を与えるものと考えられる。

謝  辞

 本研究の一部は,文部科学省科学研究費補助金,厚生労働省難治疾患克服研究事業補助金,そして武田科学特定研究助成費を用いて行われた。ここに謝辞を記す。

文  献

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